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中小企業のM&Aで失敗しない!EBITDAマルチプル法を使う前に必ず確認したい7つの視点


第1章:EBITDAマルチプル法の落とし穴: その評価、本当に中小企業向きですか?
M&Aの交渉において初期場面でよく耳にする「EBITDAマルチプル法」。
利益に倍率をかけて企業価値を(ざっくり)算出する手法ですが、
実は中小企業では使い方を間違えると危険です。
この章では「数字が合っているのに納得できない」評価がなぜ起こるのか、実務の視点から読み解きます。
1-1. 「EBITDA」は万能じゃない?数字だけで評価すると危うい理由
EBITDAは、減価償却を加味した“キャッシュ創出力”を見る指標。
企業価値を算定するうえで便利ですが、中小企業では減価償却費が実質負担と直結するため、
無視すると投資の回収見通しがズレてしまいます。
たとえば設備の更新が近いのにその影響を加味しないと、買い手はあとで「こんなはずじゃ…」と後悔しかねません。EBITDAだけに頼らず、実際のキャッシュフローもあわせて見る視点が重要です。
1-2. 中小企業だからこそズレやすい「マルチプル」の根拠とは
倍率(マルチプル)は、業種や地域、規模によって大きく変わります。
上場企業の平均値をそのまま使うと、現実からかけ離れた評価になりかねません。
たとえば、地域密着の建設業と、急成長中のIT企業では将来性も安定性も違います。
マルチプルは「実例ベース」で検討し、根拠ある数値を使いましょう。
1-3. 売り手と買い手で価値の見え方が違う?評価ギャップの正体
売り手は「この会社は家族のような存在」、買い手は「利益を生む投資対象」。
両者の価値観はそもそも異なります。
だからこそ、数値だけでは埋まらない「想いのギャップ」が評価に影響します。
買い手が重視するのは、ズバリ①利益の再現性②リスク③シナジー効果です。
ここを意識して説明できるかが交渉成功の分かれ目です。
第2章:EBITDAを正しく使うための7つのチェックポイント
M&AでEBITDAマルチプル法を使う場合、「計算方法」だけ知っていても十分ではありません。
大切なのは、“前提となる数字が正しいか”を見極めることです。
中小企業の評価では、帳簿の利益がそのまま企業価値に直結しないことも多く、評価がズレる原因は案外「基本の見落とし」にあります。
ここでは、M&A専門家の立場から、実務で必ず確認すべき7つのチェックポイントを、
3つの視点に分けてご紹介します。
No. | チェック項目 | 目的 | 注意点 |
---|---|---|---|
1 | オーナー報酬の補正 | 実態ベースの利益算出 | 第三者が経営した場合の水準に直す。 |
2 | 私的経費の除外 | 過小評価を防ぐ | 社長個人の車両費や交際費が混ざっていないか? |
3 | 非経常損益の調整 | 平常時の収益力を反映 | 補助金・特別損失など一時的要素を除く。 |
4 | 適正なマルチプル選定 | 相場との乖離防止 | 業種・地域・規模を踏まえた事例を比較する。 |
5 | 規模・成長性の反映 | 妥当な期待値評価 | 事業の再現性やオーナー依存度に注意する。 |
6 | ネットキャッシュ調整 | 株価との整合 | 現預金・借入をきちんと反映する。 |
7 | 退職金・引当債務の反映 | 手取り金額のズレ防止 | 引継ぎ時の現実的な負担を計上する。 |
2-1. ✅【視点①】実態利益を正しくつかむためのチェック(1〜3)
1. オーナー報酬は適切か?
オーナー経営者の報酬は、税金や節税目的で調整されているケースが多くあります。
しかし、M&Aの評価では「第三者が経営するならどの程度の報酬か?」という視点が必要です。
この補正を怠ると、利益が多く見えたり、逆に売り手側は過小評価されたりします。
2. 私的経費が混在していないか?
正直なところ、中小企業ではプライベートな費用(社用車、社宅家賃、接待交際費など)が経費に入っていることも珍しくありません。
これらを適切に除外することで、買手は「本当の稼ぐ力」が見えてきます。
3. 一時的な損益を除外しているか?
補助金収入や災害による特別損失、スポット契約など、平常時とは異なる損益はEBITDAから除く必要があります。
一時的な好調・不調で評価額がブレないようにするためです。
2-2. ✅【視点②】適正なマルチプル設定のチェック(4〜5)
4. 業種・地域に合ったマルチプルか?
マルチプル(倍率)は、「業種・地域・規模」で大きく変わります。
たとえば、東京のIT企業と地方の製造業では適正倍率が異なるのは当然です。
安易に平均値を使わず、近い取引事例や現実の条件を基に倍率を設定しましょう。
5. 規模・成長性・属人性を考慮しているか?
売上や利益の絶対値、今後の成長性、経営者に依存していないかといった点も、
マルチプルの根拠に影響します。
「利益は出ているが、社長がいなくなったら維持できない」場合などは、
買手側にとってはマルチプルを下げて評価する必要があります。
※売手側にとっては、マルチプルを上げるためにISO認証取得を目指すとよいでしょう。
2-3. ✅【視点③】EVから株価へ変換する際のチェック(6〜7)
6. ネットキャッシュを反映しているか?
企業価値(EV)は事業全体の価値なので、現預金と借入金(=ネットキャッシュ)を加減算して株式価値を算出します。
この調整を忘れると、最終的な売却価格が大きくズレてしまいます。
7. 退職金や未引当債務を加味しているか?
経営者の退職金や将来発生が確実な負債(例:賞与、退職金引当など)が反映されていなければ、
評価額は見せかけになります。
譲渡前にこれらを整理・引当し、手取り額の見込みと整合させておくことが重要です。
第3章:納得できるM&Aのために!評価の裏付けとプロのサポート体制
どれだけ綿密に計算しても、「その価格に納得できるか」はまた別の話。
本当に良いM&Aとは、“数字”と“気持ち”の両方が一致することです。
3-1. 売主・買主で見ている価値が違う?「納得感」の落とし穴とは
売主が大切にしているのは「歴史」「人とのつながり」「信頼関係」を重視されております。
一方、買主が見るのは「利益の再現性」「コスト」「将来の成長性」でしょう。
この“評価軸の違い”を無視すると、たとえ適正な価格でも「気持ち的に安く感じる」といった誤解が生まれます。M&Aを成功させるには、こうした価値観の違いをきちんと事前に説明・共有することが必要です。
3-2. 数字だけでは伝わらない、スキーム全体の構成力がカギ
M&Aは“いくらで売るか”ではなく、“どう引き継ぐか”が重要。
たとえば、退職金を後払いにする、社長が一定期間残って引き継ぐ、従業員の雇用を保証する…こうした条件の組み合わせによって、価格の印象も大きく変わります。
数字を支える「スキーム設計」が、買い手にとっての安心材料になるのです。
3-3. 専門家の力を借りるべきタイミングと、そのメリットとは?
当然ですが「M&Aは初めて」という経営者がほとんどです。
税務、財務、労働条件、契約実務…。
不慣れなまま進めると、後で「もっと早く相談すればよかった」となることも。
早めに専門家の視点を入れることで、リスクを事前に洗い出し、「納得できる判断材料」を持つことができます。
相談は“準備段階”でも大歓迎です。疑問の種が小さいうちに、一度ご相談ください。
最後に
M&Aは単なる「売買」ではなく、「未来をどう引き継ぐか」という大切な経営判断です。
だからこそ、数字の裏にある“実態”を見極め、納得できるスキームを作ることが成功のカギになります。
せがわ会計事務所では、金融財政事情研究会が認定しているM&Aシニアエキスパートに合格した税理士が所属しております。税務にとどまらず、実態把握・スキーム設計・交渉支援まで伴走しておりますので、
「ちょっと聞いてみたい」と思いましたら、お気軽に当事務所までお問い合わせください♪

M&Aの実務においては、マルチプル法に基づく評価は、
勢いのある会社さんに一番合う評価方法です。
資産はないけれども、収益性や成長性が高い(と見込まれる)
会社さんがバイアウトしたいときに、有利な方法といわれてます。
バイアウト検討する際には、節税よりも税金を払ってでも経常利益をあげる工夫が優先されます。
老舗企業や不動産が多い会社さんにとっては、マルチプル法は適さず別の方法が有効です。その辺はまた次回に!